静脈内鎮静法の保険適用~条件・費用・自費診療との違いを歯科麻酔専門医が解説

2025/12/15

静脈内鎮静法は保険適用される?

「静脈内鎮静法」は保険適用されるケースとされないケースがあります。

結論から申し上げますと、保険適用されるのは特定の全身疾患をお持ちの方などで通常の歯科治療が困難な場合です。

一方で、単に「痛みが怖いから」「リラックスしたいから」という理由だけでは、保険適用にはなりません。

本記事では、日本歯科麻酔学会登録医・歯科恐怖症学会専門医である私が、保険適用の条件や実際の費用、自費診療との違いについて、また当院の静脈内鎮静法の保険適用について詳しく解説いたします。

静脈内鎮静法とは

「静脈内鎮静法」とは、腕の静脈から鎮静薬を投与し、意識を保ったまま心身をリラックスさせる麻酔法です。

全身麻酔とは異なります。

患者様は眠っているような状態になりますが、呼びかけには反応できます。治療中の記憶はほとんど残りません。

静脈内鎮静法の特徴

静脈内鎮静法には、患者様にとって多くのメリットがあります。

意識は保たれる

全身麻酔とは異なり、完全に意識を失うわけではありません。呼びかけに反応できる程度の意識レベルを維持しながら、心身をリラックスさせることができます。

治療への恐怖感が大幅に軽減される

鎮静薬の効果により、不安や緊張が和らぎ、「いつの間にか治療が終わっていた」という感覚を得られる方が多いです。

治療時間が短く感じられる

実際には1時間の治療でも、患者様にとっては10分程度に感じられることもあります。時間の感覚が変わることで、長時間の処置もストレスなく受けられます。

嘔吐反射が抑えられる

通常の治療では器具が口腔内に入るだけで強い吐き気を感じる方でも、鎮静状態では反射が抑制され、スムーズに治療を進められます。

血圧や心拍数が安定する

治療中のストレスによる血圧上昇や頻脈を防ぎ、特に高血圧症や心疾患をお持ちの方にとって安全性を高める効果があります。

この方法は、歯科恐怖症の方や長時間の治療を受ける方にとって有効な選択肢となります。

保険適用される静脈内鎮静法条件

静脈内鎮静法が保険適用されるには、明確な医学的根拠が必要です。

※当院では一定条件を満たす方は保険でご案内させていただける場合が御座います。

静脈内鎮静法が保険適用される主なケース

① 全身疾患をお持ちの場合

全身疾患をお持ちの方は、通常の歯科治療でもストレスが全身状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

高血圧症の方

治療中の緊張や痛みによって血圧が急上昇するリスクがあります。静脈内鎮静法を用いることで、血圧を安定した範囲に保ちながら治療を進めることが可能です。

心疾患をお持ちの方

特に狭心症や心筋梗塞の既往がある方は、治療中のストレスが心臓に負担をかける恐れがあります。鎮静状態を保つことで、心拍数や血圧の変動を最小限に抑えられます。

脳血管疾患の既往がある方

静脈内鎮静法の保険適用が認められます。脳梗塞や脳出血の経験がある方は、血圧の急激な変動を避けることが肝要です。

糖尿病をお持ちの方

治療中のストレスが血糖値に影響を与えることがあります。リラックスした状態で治療を受けることで、血糖値の変動を抑える効果が期待できます。

喘息などの呼吸器疾患がある方

治療中の不安や緊張が呼吸器症状を悪化させる可能性があるため、鎮静法によって症状の発現を予防できます。

これらの疾患があり、通常の歯科治療でストレスが全身状態に悪影響を及ぼす可能性がある場合、保険適用が認められます。

② 歯科恐怖症・パニック障害

「歯科恐怖症」と診断され、通常の治療が困難な場合も保険適用の対象です。

ただし、診断書や医師の所見が必要になります。

③ 嘔吐反射が強い場合

治療器具が口腔内に入るだけで強い嘔吐反射が起こり、治療継続が困難な場合も適用されることがあります。

④ 精神疾患をお持ちの場合

統合失調症、うつ病、発達障害など、精神疾患により通常の歯科治療が困難な場合も対象となります。

保険適用されないケース

保険適用には医学的必要性が求められるため、すべてのケースで適用されるわけではありません。

「痛みが怖い」という理由のみ

では保険適用になりません。痛みへの不安は理解できますが、それだけでは医学的必要性として認められないのが現状です。

より快適に治療を受けたい

保険適用の対象外となります。「リラックスして治療を受けたい」「治療中の記憶を残したくない」といったご要望は正当なものですが、保険診療の枠組みでは対応できません。

美容目的の治療に伴う静脈内鎮静法

保険適用外です。審美歯科治療やホワイトニングなど、美容を主目的とした処置では、鎮静法も自費診療となります。

予防的な処置

クリーニングや定期検診など、予防を目的とした処置では静脈内鎮静法の保険適用は認められていません。

重要なのは、医学的必要性があるかどうかという点です。

ただし、これらのケースでも自費診療であれば静脈内鎮静法を受けることは可能です。ご希望に応じて柔軟に対応できますので、まずはご相談いただければと思います。

重要なのは、医学的必要性があるかどうかという点です。

静脈内鎮静法の保険適用時の費用

保険適用時の費用は、患者様の負担割合によって変わります。

実際の費用目安

3割負担の場合:

  • 静脈内鎮静法の費用:約3,000円~5,000円
  • 術前検査(血液検査など):約2,000円~3,000円
  • 歯科治療本体の費用:別途

1割負担の場合(高齢者など):

  • 静脈内鎮静法の費用:約1,000円~2,000円
  • 術前検査:約700円~1,000円

これに、実際の歯科治療費(抜歯、インプラント手術など)が加算されます。

注意点

  • 施設によって多少の差があります
  • 自由診療の治療と組み合わせる場合は全額自費になります
  • 事前に医療機関へ確認することをお勧めします

保険適用でも術前評価を徹底して良好な経過を得た例もあります。ただし、保険診療では使用できる薬剤や実施できる範囲に制限がある点は理解しておく必要があります。

自費診療との違い

保険診療と自費診療では、いくつかの違いがあります。

項目保険診療自費診療
費用3,000円~5,000円(3割負担)30,000円~100,000円
適用条件医学的必要性が必要希望すれば可能
使用薬剤限定される選択肢が広い
モニタリング基本的な項目より詳細な管理
時間標準的余裕を持った時間設定

自費診療のメリット

  • 希望すれば誰でも受けられる
  • より快適性を追求できる
  • 使用薬剤の選択肢が広い
  • 時間に余裕がある

自費診療のデメリット

  • 費用負担が大きい
  • 施設によって価格差が大きい

どちらが妥当かは、患者様の状態や治療内容によって異なります。

当院の静脈内鎮静法の取り組み

基本的に静脈内鎮静法は疾患をお持ちでない方以外は原則自費扱いとなります。ただし、マリコ歯科クリニックでは、一定の条件を満たす場合、全身疾患がない方でも保険で静脈内鎮静法をご案内しております。 たとえば、以下のようなケースが該当することがあります。

  • 過去の治療で強い恐怖やトラウマ反応がある
  • 治療中に血圧上昇や動悸が起こりやすい
  • 嘔吐反射(オエッとなる反応)が強く、通常治療が困難
  • 医師が必要と判断した場合(診療録・モニタリング下で実施)

これらは医学的リスク管理の一環として認められる保険診療として行えることがあります。

当院の保険と自費の違い|「うとうと」レベルと「深い鎮静」レベル

区分鎮静の深さ適用内容費用目安対応例
保険診療軽度〜中等度(うとうと眠い状態)全身状態の安定が目的約2〜3,000円前後(3割負担)歯科恐怖・嘔吐反射など
自費診療深めの鎮静(より眠りに近い状態/静脈麻酔)長時間・集中治療向け22,000円/45分まで33,000円/外科治療時インプラント、根管治療、セラミック治療など

保険では安全性を確保しながら軽い鎮静で行い、
自費ではより深くリラックスした状態で長時間治療が可能です。

マリコ歯科クリニックでは、「怖い」「不安」と感じるすべての患者様が、安心して治療を受けられる環境を整えています。保険が適用できるか、できないかは実際の状態や症状をお伺いした上で総合的に判断させていただいております。

気になる方は来院前に一度、お問い合わせください。

治療の流れ

静脈内鎮静法を用いた治療の流れをご説明します。

① 初診・カウンセリング

まず、患者様の全身状態や服用中の薬、アレルギーの有無などを詳しく伺います。

保険適用の可否についても、この段階で判断いたします。

② 術前検査

血圧測定、心電図、血液検査などを実施します。

これは安全に鎮静法を行うために肝要な工程です。

③ 治療当日

治療当日は、安全に静脈内鎮静法を実施するため、いくつかの段階を踏んで進めてまいります。

来院前の食事制限

通常、治療の2時間前から絶食をお願いしております。これは、万が一嘔吐が起きた際の誤嚥を防ぐための重要な措置です。

点滴ルートの確保

腕の静脈に細い針を刺し、鎮静薬を投与するための経路を作ります。この時、多少の痛みを感じることがありますが、すぐに落ち着きます。

モニターの装着

を行います。血圧計、心電図、酸素飽和度を測定するセンサーを取り付け、治療中の全身状態を継続的に監視いたします。これにより、異常があればすぐに対応できる体制を整えます。

鎮静薬の投与

準備が整い次第、鎮静薬の投与を開始いたします。点滴から薬剤がゆっくりと体内に入っていき、数分でリラックスした状態になります。眠っているような心地よい感覚が訪れます。

歯科治療の実施

鎮静が適切な深さに達したら、歯科治療を実施いたします。患者様はほとんど治療の記憶が残らず、気がついたら終わっているという感覚を得られることが多いです。

覚醒の確認

治療終了後は、覚醒の確認を行います。呼びかけに対してしっかり反応できるか、ふらつきはないかなどをチェックいたします。

ご帰宅

休憩後、付き添いの方と帰宅していただきます。リカバリールームで30分から1時間程度お休みいただき、全身状態が安定したことを確認してからお帰りいただきます。当日は必ず付き添いの方と一緒にご帰宅ください。

④ 治療後の注意

治療後は、鎮静薬の影響が完全に抜けるまで、いくつかの注意点を守っていただく必要があります。

当日の車・バイク・自転車の運転は禁止

鎮静薬の効果は数時間持続することがあり、反射神経や判断力が低下している可能性があります。交通事故のリスクを避けるため、必ず付き添いの方に送迎をお願いしてください。

重要な判断や契約は避ける

治療当日は、記憶が曖昧になったり、判断力が普段より鈍っていたりすることがあります。大切な書類への署名や高額な買い物などは、翌日以降に延期することが妥当です。

アルコール摂取は控える

鎮静薬とアルコールの相互作用により、予期せぬ副作用が生じる可能性があります。当日の飲酒は避け、翌日からは通常通りで問題ありません。

ただし、翌日は通常通りの生活が可能です。ほとんどの方は翌朝にはすっきりと目覚め、仕事や日常生活に支障なく復帰できます。特別な制限はございませんので、安心してお過ごしください。

治療時間

処置内容によりますが、30分~2時間程度が一般的です。

リスクと副作用

静脈内鎮静法は比較的安全な方法ですが、医療行為である以上、リスクはゼロではありません。

主なリスク・副作用

血圧の変動

鎮静薬の影響で血圧が一時的に低下したり、逆に上昇したりすることがあります。そのため、治療中は常にモニターで血圧を監視しています。

呼吸抑制のリスク

鎮静が深くなりすぎると、呼吸が浅くなることがあるため、酸素飽和度を継続的にチェックしながら薬剤の量を調整いたします。

アレルギー反応が生じる可能性

使用する薬剤に対してアレルギーをお持ちの場合、発疹や呼吸困難などの症状が現れることがあります。事前の問診で薬剤アレルギーの有無を詳しく確認することが肝要です。

点滴時に血管痛を感じる

薬剤が血管に入る際、一時的にピリピリとした痛みを感じる方もいらっしゃいます。

注射部位の内出血

針を刺した部分に青あざができることがありますが、通常は数日で自然に消失します。

治療後にはふらつき感が数時間持続することがある

当日は車やバイク、自転車の運転を避けていただく必要があります。付き添いの方と一緒にご来院いただくことをお勧めします。

まれに記憶障害(一過性)が生じることがある

治療前後の記憶が曖昧になることがありますが、これは一時的なもので、翌日には通常通りに戻ります。

これらのリスクを最小限にするため、昭和大学歯科病院での研修を含め、私たちは十分な訓練を受けています。

当院の安全管理体制

患者様の安全を最優先に考え、万全の体制を整えております。

日本歯科麻酔学会の基準に準拠した設備を完備

この基準は、静脈内鎮静法を安全に実施するために必要な最低限の設備や環境を定めたものです。私たちはこの基準を満たすだけでなく、さらに高い水準を目指しています。

緊急時の対応マニュアルを整備

万が一、血圧の急激な変動や呼吸抑制などが生じた場合でも、スタッフ全員が迅速かつ適切に対応できるよう、定期的な訓練を実施しています。

AED・酸素・救急薬品を常備

心停止などの緊急事態に備え、AED(自動体外式除細動器)や酸素ボンベ、各種救急薬品をすぐに使える状態で準備しています。これらの機器は定期的に点検し、常に正常な状態を保っております。

術前の丁寧な問診と検査の徹底

患者様の既往歴、服用中の薬、アレルギーの有無などを詳しく伺い、必要に応じて血液検査や心電図検査を実施いたします。この事前評価こそが、安全な鎮静法実施の鍵になります。

万が一の事態に備え、医科との連携体制も確保しております。

歯医者が怖くて虫歯だらけ。そんなあなたを救う「静脈内鎮静法」という選択肢

 静脈内鎮静法に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 保険適用かどうかは、どのように判断されますか?

A. 初診時の問診と診察によって判断いたします。全身疾患の有無、歯科恐怖症の程度、過去の治療経験などを総合的に評価します。必要に応じて、かかりつけ医からの情報提供書をお願いすることもあります。保険適用の可否については、事前に明確にお伝えいたします。

Q2. 自費診療と保険診療で、安全性に差はありますか?

A. 安全性に差はありません。どちらも日本歯科麻酔学会の基準に基づいた設備と管理体制で実施します。自費診療では使用薬剤の選択肢が広がる、より詳細なモニタリングが可能になるなどの違いはありますが、基本的な安全性は同等です。

Q3. 治療当日は仕事を休む必要がありますか?

A. 治療後数時間はふらつきや眠気が残ることがあるため、当日は休暇を取られることを推奨いたします。特に重要な会議や判断を伴う業務がある場合は、翌日以降に設定することが現実的です。デスクワークであれば翌日から通常通り可能です。

Q4. 何歳から静脈内鎮静法は受けられますか?

A. 一般的には、点滴が可能な年齢(おおむね小学校高学年以上)から実施できます。ただし、お子様の場合は体格や協力度によって判断が異なります。高齢の方でも、全身状態が安定していれば問題なく受けられます。個別の判断が鍵になりますので、ご相談ください。

Q5. 保険適用の治療と自費の治療を組み合わせることはできますか?

A. 原則として、保険診療と自費診療の混合診療は認められておりません。例えば、静脈内鎮静法を保険適用で受ける場合、歯科治療本体も保険診療である必要があります。インプラントなど自費診療を受ける場合は、静脈内鎮静法も自費扱いとなります。この点は医療制度上の制約ですので、ご理解いただければと思います。

 医師からのコメント

昭和大学歯科病院 歯科麻酔科での経験を通じて、多くの患者様に静脈内鎮静法を実施してまいりました。

「歯科治療が怖くて何年も放置していた」という方が、この方法によって治療を完了できたケースを数多く見てきました。

保険適用の条件は確かに限定されていますが、該当する方にとっては非常に優先度が高い選択肢です。

一方で、「快適に治療を受けたい」という希望も十分に理解できます。その場合は自費診療という選択肢があります。

重要なのは、ご自身の状態や希望に合った方法を選ぶことです。

歯科恐怖症学会専門医として、患者様一人ひとりの不安に寄り添い、最適な治療方法をご提案することが私たちの使命だと考えております。

ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

渡辺 敏光

著者

渡辺 敏光

副院長 / 麻酔専門医

昭和大学卒業後、インプラント/歯周病専門クリニックで研修を修了。昭和大学歯科病院歯科麻酔科に入局し、全身麻酔、静脈内鎮静法、静脈麻酔、笑気吸入鎮静法などを実施。2012年よりマリコ歯科クリニックに勤務。日本歯科麻酔学会登録医、歯科恐怖症学会専門医の資格を有する。顕微鏡歯科学会、日本障害者歯科学会、日本歯周病学会にも所属。

マリコ歯科クリニック
代々木駅
徒歩 1

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診療時間
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